2018年10月4日に釧路で、翌5日に厚岸町で弊社社長森田が講演をさせていただきました。北海道の東部太平洋岸に位置する厚岸町は「石けんの町」として1997年から全国で唯一、石けんの購入助成制度を制定されています。その制度の立役者である室崎町議に、制度にいたる経緯やこれからの課題などをお伺いいたしました。
北海道厚岸町・町議
室崎 正之さん
北海道厚岸町在住。厚岸町議会議員、リサイクルせっけん協会北海道代表、厚岸せっけんの会代表、厚岸コミュニケーション障害の会事務局長。著書に『小さな町の議員と自治体』(公人の友社)、『小さな町のせっけん運動』(リサイクルせっけん協会北海道)。
※対談は2018年10月5日に行われました。
森田 先ほどは、講演をさせていただき誠にありがとうございました。実は20年前、先代社長の父も講演させていただいた縁のある地です。
室崎
先代の森田社長の講演を依頼したのは当時の漁協婦人部でしたね。
私は1987年に議員となり、環境問題に関心を寄せる方とのご縁を多くいただいたんです。最初はゴルフ場の農薬の問題でした。農薬による環境への影響を最小限にするため、町はゴルフ場と公害防止協定を結びました。
森田 農薬は使用するその場所だけに収まらず降雨や空中飛散など広範囲に影響を及ぼすと聞きます。
室崎 その通りです。それだけでなく、ゴルフ場から排出される水も環境に大きな影響を与えます。この動向を知り私に声をかけてくれたのが北海道ゴルフ場問題ネットワーク代表の方でした。この方は、環境問題全般に見識がおありで、合成洗剤の危険性や石けんとの違いなども詳しく教わりました。
森田 1999年に施行された「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」内のPRTR制度により、人の健康や生態系に有害な恐れのある化学物質を指定しています。しかし2016年度の調査によると未だ家庭から排出される指定化学物質の半分以上が合成界面活性剤という残念な結果です。
室崎
厚岸町は水産の町です。水質の保全は重要な問題です。ゴルフ場だけではありません。BOD数値をもとに計算した結果、家庭排水の7.5倍もの汚濁物質が水産の工場から海に排出されていることがわかりました。これを指摘し、町は工場と公害防止協定を結んだのです。
また、奇形魚である背曲がりハマチの原因とされ、その後、環境ホルモンとして注目を浴びた、猛毒のTBTO。船底塗料や鮭鱒定置網に使用されており、それが合成洗剤によって海水中に溶出している問題も取り上げました。家庭はもちろん企業を含め、町全体で対策を講じる必要があると思いました。
この頃でしたね。先代の森田社長が見えられたのは。
森田 先代をお招きいただいた背景にはアワビの養殖の問題がおありだったと聞いています。
室崎 本州での話ですが、アワビの養殖にはカゴのような容器にアワビの子どもをいれて海に入れるそうです。カゴは定期的に清掃する必要がある。しかしどうもうまくいかない。それでカゴを清掃する洗剤を石けんに替えてみたところ解決したそうです。
森田 先代も合成洗剤を製造販売していた時期に、原因不明の湿疹に悩んでいました。その頃の先代は合成洗剤を使っていましたが、ある仕事を機に石けんに替えたところ、うそのように湿疹がなくなったそうです。漁協婦人部のどなたかが、そんな話もご存じだったのかもしれません。
室崎
厚岸町は海と大地の恵みで生きる漁業と農業で成り立っている町です。海と大地は貯金の元金、産物は利息です。元金を壊してしまっては利息では食えません。環境保全はこの町の生命線です。漁協婦人部は「自然を破壊する合成洗剤の使用をやめ町として石けんの推奨を求める請願」を議会に出し満場一致で採択されました。
また町長からは、「このような発想を持てなかったことは首長として恥ずかしい、今日から厚岸町は全力を挙げて石けん運動に取り組む」との発言を得ました。
森田 突然の決定に現場は混乱されたのではないでしょうか。
室崎 確かに混乱はありました。例えば給食センターの厨房では、合成洗剤の使用を前提に作業が組み立てられていました。そこで石けんを使い始めると、職員が午後3時に退勤できず午後5時過ぎになってしまう。また、溶けない、くさい、高いと不満に思う方も多い。においに関しては、味噌が味噌くさいと怒る人はいないですよね。自然のものは特有のにおいを持っていると言うんですがなかなか通じません。
森田 弊社にも香料入りのご要望をいただくことがあります。しかし、その香りが肌に合わずに体調を崩したり、化学物質過敏症を発症される恐れがあるので香料は使用していないということをご理解いただいています。
室崎
使いづらいならその使い方を学べばいいと思い、講習会を開催しました。札幌市では学校給食の厨房はすべて石けんを使用しています。その札幌市から講師を招き、給食センターや町立病院など厨房を持つ施設の担当職員などを対象に行いました。
この頃、民間主体で石けん運動を継続し広げる必要を感じて立ち上げたのが「厚岸せっけんの会」です。それで、石けん購入に助成があれば購入促進になると考え行動を開始しました。
森田 石けん購入に25%補助する全国でも唯一の制度ですね。
室崎 これは町内の石けん取扱指定店で町が認定した石けんを購入すると適用されます。消費者には25%を、取扱指定店には事務手数料を兼ねた報奨金5%を充てる仕組みです。この制度の良さとしてもうひとつ、間違いなく石けんを購入できることです。メーカーに確認し、合成洗剤でなく石けんであるとの回答を得た製品のみを取り扱うわけですから。
森田 石けんと合成洗剤の区別は未だ認識されていないのが現状です。
室崎 今後の課題は石けんの日常化です。石けん運動をする方の中には自分たちで石けんを手作りすることが肝要だとか、特定の石けんメーカーのものでなければ駄目だと主張する方が多くいらっしゃる。これは石けんユーザーが国民の9割以上になったときにすればよろしい。合成洗剤を使わず「石けんを使用することが当たり前」の世の中にすることが最優先です。目に映る自然はきれいで豊かかもしれません。ですが荒廃は進んでいる。環境や命を守るためには、今行動することです。一人ひとりが自分でなにができるのか、その選択と行動がますます大事になってきます。私も町民の命と健康を守ることを最優先に取り組んでいきたいと考えています。
森田 「健康な体ときれいな水を守る」と題し講演させていただきました。これは弊社の企業理念であり、自然に対してわれわれがどうあるべきなのかの指針です。本日は講演の機会に加え、貴重なお話しを聞かせていただきありがとうございました。環境問題は待ったなし、石けんを使用することが当たり前の世の中になるよう、日々研鑽行動してまいります。