コラム
『薬や医療に頼りすぎない
心穏やかな生き方』
- 22歳で右卵巣の摘出手術を機に食や自然治癒力の大切さに気づく。2005年、築130年の古民家に九州唯一のオーガニックショッピングモールを設立。NPO・植物資源の力、監事。自然食と農・子育てなどをテーマにした講演、産地支援、まちづくり活動。1男1女の母。
— 店舗やオンラインでの自然食材の販売、レストラン経営、セミナー活動など、幅広い事業を展開されています。病気を経験されたことが、きっかけだったそうですね。
レストランでは、自然栽培農家さん直送の生命力のある素材を使用し、おいしくいただけるメニューを提案。
病気やケガ知らずだったのに、20代から5年おきくらいには体にメスを入れていました。女性特有の病気にも悩まされ、薬のお世話になる生活だったんです。その後、出産し、やっぱり子どもを健康に育てたい、子どものためにできるだけ薬などに頼らないで、自然に育てるにはどうしたらいいんだろうか。子どものために、自分も健康でありたいと思うようになりました。いろんな本を読んだり勉強し調べると、結果、やはり食の問題にたどりついたんです。それと、運動。きちんと運動して、食べたものを筋肉に変えるのも健康保持には非常に大事だと感じます。今では薬いらずの身体になりました。
—食の勉強をされる中で印象に残っていることは、どんなことでしたか。
疑問に思うことばかりだったことです。例えば、産後、母乳の質が良くなるからと勧められた健康食品。なぜ、それが必要なのかを勧めてくださった方に尋ねると、以前と比較すると野菜など食べ物の質が落ちているから、健康食品やサプリメントで補うことが必要なんですよということでした。その回答に私、納得がいかなくて。補うのではなくて食べ物そのものの質の低下が問題であり、なぜそうなっているのか、どうしたら質を取り戻すことができるのか、そこを解決しないといけないのでは?と思ったんです。
—心のひっかかりに気づき、自分で調べて、確かめることが大切ですね。
自分の五感からくるものは、腑に落ちます。腑に落ちていれば、そういう考え方に疑問を持つことができる感覚というものが、備わるように感じます。野菜の栄養が以前よりも低下しているからと、サプリメントで補う。それは、果たして当たり前なのか? 本来の生命力が宿った野菜づくりをしよう、農薬や肥料漬けで野菜の生命力を低下させてしまう方法は見直そう、農薬や肥料の使用は当たり前ではない、と考えることができる。自然栽培に取り組む農家さんたちも私も、その感覚と考え方が根底にありますし、そうやって、日々、土や野菜たちと向き合っているんです。
—自然栽培の農業を応援されているとお聞きしました。
農薬や肥料を使用すると、土は硬く、虫など生き物は生きられないし人体にも影響を及ぼします。また、農薬に頼らないと育たない、大半が輸入された農薬肥料漬けの種が使用されています。自然栽培は一朝一夕で行えるものではないので、土づくりや種採りからじっくりと農家さんと関わらせていただいています。自然栽培を行う田んぼや畑は、微生物をはじめ、生き物が豊かに住みつき、土もふかふかで柔らかいんです。そこに身を置くと、楽しくて、気持ちいい。その感覚を、できるだけたくさんの人に味わっていただきたくて、田植え体験ツアーなどの企画も実施しています。
— 温州みかんの自然栽培に成功した農家さんとも連携されているとか。
熊本県にみかんの産地で有名な玉東(ぎょくとう)町という地域があります。そこに、現在、日本で唯一ともいえる、農薬・化学肥料だけでなく、有機質肥料・堆肥も一切使わない温州みかんの自然栽培に成功した方がいらっしゃいます。自然栽培を行っているので、その方の農地には、さまざまな微生物が共生し、まるでビオトープのような豊かな自然が広がっています。ですがその方以外の農地では、自然とはかけ離れた農地ばかりです。「都会の人は田舎暮らしにあこがれ、田舎は自然が豊かだろうと思ってる。でも、実際は見てのとおり。私以外の農地は、皆さん農薬肥料を何度も使用するので土も硬いし、虫は寄ってこない、殺伐とした状態です。田舎は自然が豊かだというのは大間違い。もしかすると、都会のほうが自然が豊かなのかもしれない」と話されていました。現場をご覧になれば、皆さんが思い描く自然豊かな農地が広がるような田舎は、幻想なのだと納得いただけると思います。
— 土に触れる生活とかけ離れた暮らし方が、五感を鈍らせるのでしょうか。
スタッフ向けの勉強会でも、植物が育つ土って、どんな土?地球の表土は、地球の歴史の中でどう形成されてきたのか?など、土の話からスタートします。園芸店などで販売されている土を土だと思う方が大半だと思いますが、本物の土というのは山などの自然に存在する土です。そこで、園芸店の土と山の土はどう違うのか、実際に触り比べることで一人ひとりが違いを体験できるようになります。また、自然栽培とは、自然に適応した種を基本にするものですから、種に関わることも重要な学びです。お店で購入する種と、自然の中で適応して生き延び、種を残し土にこぼれて新たな生命が芽生え生育する種といかに異なるのか。その土で育ち、そこにこぼれ落ちた種で生育したトマトは、お店で購入した種と肥料から育つものと比較すると、圧倒的に自然界の種から生育したトマトのほうがおいしい。その違いも分かるようになります。
— 体験が五感を磨く、大人になるとその視点が欠落しがちです。
このお店でたくさんの赤ちゃんを見てきたから言えるんですけれども、いつの時代でも赤ちゃんだけは変わらない。子育てするママたちにもたくさんお会いして、その悩みもたくさん聞かせていただきました。大人は時代とともに変わってきた部分はありますが、赤ちゃんだけは変わらない。赤ちゃんは、人間が本来持ち合わせている本能や五感そのものだから。首がすわり寝返るようになる、すると、もう少し手を伸ばせば目指すものに手が届きそうだと、ハイハイをし始める。もっとこういうふうになりたい、こんなことをしてみたいを実現させていく姿はずっと変わってない。そういう姿に私は感動しますし、自分もずっとそうありたいと刺激を受けます。自然界の土に触れさせたり、海や山にも出かけて自然の空気を感じる、自然の緑を実際に目にするなどはとても大事。それは、赤ちゃんにとってだけでなく、ママやパパにも大切なことだと思います。
— 生活雑貨も豊富に扱われて、暮らし方の提案も積極的です。
セミナーも開講しているので、女性ならではの症状などの悩みを聞かせていただく機会も多いんです。そういった症状を、薬を飲んで治そうとする、あるいは、その場だけやり過ごすなどの女性が以前より増えているし、低年齢化していることも心配です。化学物質を直接肌に身に着けてしまうことになる紙ナプキンの使用には懸念があるため、布ナプキンの使用を提案したくて、店頭でも取り扱っています。それは一つのアイテムですが、食材だけでなく自然素材のものを身に着ける、化学物質をなるべく避ける生活を普及させることが、健康を保つための一番の早道だと思います。
— 『薬や医療に頼りすぎない心穏やかな生き方』提案ですね。
紙ナプキンとは違って布ナプキンは、洗濯をする必要があります。ポイ捨てできませんし、ひと手間かかる。ある意味不便なものなのかもしれません。しかし、そのひと手間をかけることでご自身の体調を確認できる機会を得ることができます。ご自身の体と向き合えるチャンスなのです。ポイ捨てという便利さは、健康という意味合いからすると、体の変化に気づきにくい、不便で不健康な方向に向かっているとも考えられるのではないでしょうか。自分の体にもっと関心を持ち、変化に気づく。不便さをある程度残すという、暮らし方の提案でもありますね。
— われわれも、化学物質の危険性は、衣食住にわたり今後も発信し続けたいと思います。
本当のことは、普遍であり不変です。ですが、伝えてこそ、発信し続けてこそ、次世代に伝わるものです。繰り返し、繰り返し伝える。本当のこと、当たり前のことが伝えきれていない部分があるのではないでしょうか。シャボン玉石けんさんにも、ぜひ、これまで同様、事実やエビデンスある情報を発信し続けてほしいです。
— ありがとうございます。読者へのメッセージをお願いします。
まず大切なのは、家族や自分の健康を保ち、穏やかに暮らすことです。そして、地域。この地域のおかげで、このお店やいろいろな事業を、ここまで続けてくることができました。本当の土や種や食べ物、穏やかな暮らし方が、地域に、世界中に広がり、そして、次世代の子どもたちに、ただただ、残したいという一心だけで(笑)。やはり、地域に根を張ることが大事です。ルーツピュアリィの名は、その想いを込めています。根を張るっていいですよ。地域に根を張る、植物が根を張る、人が自立できるのも、根を張ってるという証拠。根なし草は風で簡単に倒れ、肥料に頼ると、大きくなったかに見えても、弱いものです。私は、野菜たちや農家さんたちの姿勢から、貴重なことをたくさん学ばせていただきました。また、2016年に熊本県を中心に甚大な被害をもたらした熊本地震から、地域は復旧復興が進んでいます。その支えとなってきたのはやっぱり、人のつながり。そのことを、これからも子どもたち、ママたち、パパたち、地域の人たちに身を持って伝え続けようと思います。ここは、なんでもお話しいただける場でもあります。お気軽にお越しください。