コラム
〈無添加石けんは環境にやさしい!〉
島まるごと実証実験プロジェクト結果
九州環境管理協会とは
地域住民の健康と生活を守り、広く環境の保全と整備並びに社会の健全な発展に寄与することを目的として、環境保全に関する普及啓発事業、調査研究、環境分析・試験及び環境アセスメント等の事業を行う。
-森田
シャボン玉石けん、宗像市、山口大学、九州環境管理協会の4者で、2021年9月から11月まで福岡県宗像市の地島(じのしま)で実施した実証実験プロジェクトですが、〈石けんは環境にやさしい〉という結果を得ることができました。プロジェクトメンバーの皆さまに、それぞれのお立場から本プロジェクトの意義などお話いただき、会員様へ報告の機会にできればと思います。
宗像市全面協力のもと
成功したプロジェクト
-森田
本プロジェクトの成功は、宗像市、地島島民の皆さんからの全面協力があればこそというのがメンバー全員の共通認識です。まずは、宗像市・伊豆市長から、宗像市や地島をご紹介いただけますか。
-伊豆市長
宗像市は、東西南の3方を山に囲まれ北に玄界灘を望み、北九州市と福岡市の中間に位置します。世界遺産の沖ノ島・大島、そして地島も市域に含みます。地島は人口約140人で島民のほとんどが漁業者です。島の特産品〈地島天然わかめ〉は、宗像大社を通じて毎年、皇室に献上され、今年2022年5月に地域団体商標にも登録されました。天然わかめが育つ豊かな海や自然が今日まで引き継がれてきたのも、島民の皆さんのおかげなんです。
-森田
地島島民はもちろん、宗像市民は環境意識が高い、というのがわたしの印象です。当社は、2014年から毎年宗像市で開催されてきた〈宗像国際環境会議〉(※1)に第2回から参画しています。宗像で世界中の環境活動報告が行われ、環境保全に取り組む中、〈「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群〉世界遺産登録にご尽力された宗像大社葦津(あしづ)敬之宮司とのご縁もいただき、その海洋保全に対する強い思いに感銘しました。また、会議で企画されるフィールドワークを宗像市民の皆さんと共に行い、「環境に良いことをしたい」と積極的に行動される姿に触れ、何かご一緒にできないだろうかと社内で常々話題にしていたんです。
〈宗像国際環境会議〉(※1) 先人たちから引き継いだ「歴史と文化」そして「自然」。世界遺産〈「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群〉の海の現状を知り、未来に向け「鎮守の森」として守り、再生する方策を議論・行動しようと、2014年から毎年開催されている。
-伊豆市長
実は、宗像市とシャボン玉石けんさんとの歴史は1990年代にまでさかのぼるんですよね。当時、河川の水質汚染が全国的に問題となり、宗像でも市民運動が盛り上がり、食用廃油からリサイクル石けんを作る取り組みが始まりました。たくさんの人が食用廃油を瓶に入れていたのをよく覚えています。今でも、わたしにとって食用油は石けんの材料であり、リユースするのが当たり前のものになっています。そして、この石けん作りを指導してくれたのがシャボン玉石けんさんでした。
-森田
当時もたくさんの市民の皆さんが参加されていたのが印象的でした。今回、協力ご決定のポイントをお聞かせください。
-伊豆市長
環境問題という言葉はスケールが大きすぎるのかもしれませんが、消費者一人ひとりの行動や選択で貢献できることがある。今回の実証実験は、そのことを多くの人に知ってもらえるチャンスと思ったんです。ハンドリング人数、島という境界線の分かりやすさ、また皇室献上わかめの採場という良好な場所……などの条件から、地島を選定し参加することを決定したんです。
-森田
実験の成功は、行政と市民との良好な関係性という土台があったからこそ、貴市の協力なくしては実現できませんでした。市から島民の皆さんにしっかりと説明を行っていただけたことに、改めて感謝申し上げます。
-伊豆市長
シャボン玉石けんさんも、石けんについて、その使い方も島民へ根気強く説明していただきました。
-森田
石けんを使ったことがない方が大半でしたので、そもそも石けんとはどういうものなのか、石けんと合成洗剤の違い、石けんの使い方から説明しました。最初は、合成洗剤より手間がかかる、使いづらい、トイレ用・風呂用など専用洗剤がないけどどうすればいいの?といったお声を頻繁にいただきました。こうしたご意見にわれわれから使いやすくなるための方法をお知らせしたり、場所別の使い方をご提案したり、回答のキャッチボールをするうちに、「昔使っていた石けんってこんなんだったよね」と話す方もいて、住民の方から「わたしはこんな使い方をしたらすごくよかった」「使ってみると、石けんって意外といいな」と言っていただけるなど、石けんへの理解の深まりの手応えはありました。
専門性を備えた
旧知のつながりで
結成されたチーム
-伊豆市長
実は、分析ご担当の九州環境管理協会(以下、九環協)さんには、随分前から宗像市の環境計画を助けていただいており、ご縁を感じるプロジェクトだなと思ったのを覚えています。百島理事長は、シャボン玉石けんさんから、このお話があったとき、実験への第一印象はいかがだったのですか?
-百島理事長
「なんか、おもしろそうだな」と思いました(笑)。お話に来られたのが、大学の教え子であるシャボン玉石けん研究開発本部長の川原さんだった。「今回の実験は、かなり複雑で、多角的分析が求められる内容になりそうなので、百島先生にご相談したい」と。詳細を聞くと、排水処理に関する学術的実験の必要性も感じました。ここにまたご縁があって、うちのスタッフの藤井が「その内容なら山口大学の今井教授に相談したい」と言うんです。
-今井教授
今から15年ほど前に、藤井さんが社会人ドクターとして山口大学に来られ一緒に研究室に所属していたことがあったんです。「下水道や排水処理関係のことなので、ぜひ今井先生にお願いしたい」と、思い出してくださったのがうれしかったですね。「いいですよ」って即答しました(笑)。石けんについてはシャボン玉石けんさん、水質分析は九環協さん、微生物調査は山口大学、役割分担がうまくできたチームだったと思います。
-森田
旧知のご縁から人と人とがつながって、しかも専門性の絶妙な組み合わせでした。
自然相手の
短期実験は
難易度が高い
-伊豆市長
こうして一堂に会し、皆さまの雰囲気から、温かで明るいつながりの中、実験が行われたこと、また、研究者としての高揚感が伝わってまいります。しかし、ご苦労も多かったのではないですか。
-百島理事長
やはり、環境、特に生き物への影響を明らかにすることが主眼の実験をご希望でしたから、環境を相手にする、やり直しがきかない条件下、実験計画を立てるのも難しい内容だな、というのは正直ありました。実験の成功を左右するのは、実験計画。計画段階で、成功か失敗がほぼ決まるものなんです。今回、計画段階から今井先生に入っていただけたことが、成功への手堅い道筋だったのだと確認することができました。
-今井教授
一般的に、物質が海に与える影響を調査するには、季節性や他の外因などにも左右されるので3カ月という短期間では、調査としては無理があります。天然わかめへの影響調査となると、それこそ10年ががりで行うようなプロジェクトです。そこで、排水処理施設、そこの微生物に着眼し実験計画を立案しました。排水処理施設は、われわれの排出した汚水を微生物にきれいにしてもらう場所です。そこの微生物を観察することで、何か変化が起きるのではないかと。今まで元気がなかったものが元気になったり、種類が増えたり……そういった変化を何らかの形で示せればいいのでは? との発想からでした。微生物は世代交代期間が短く、短期調査対象として有力です。学術資料を事前に調べ、合成洗剤による排水への影響を示すものもありましたし、また、季節、環境変化の影響も想定し、現場とラボの2拠点での実験を進めたんです。
-森田
今井先生、総括して実験結果はいかがだったのでしょうか?
-今井教授
はい、生分解性試験から、LAS(合成洗剤)と比較して石けんの分解性は高い値を示しました。つまり、石けんは環境への負荷が少ないということです。また、石けんのみ使用する実験期間中、廃水処理場の汚泥状況が良好な場合に現れる菌が確認され、曝気槽の環境に良い影響を与えたといえる傾向にありました。微生物は多様性を増し、また数量など増加していて、微生物がイキイキしている状態でした。
-百島理事長
あくまでラボでの実験ではありますが、わかめの幼芽が合成洗剤に浸すと1日で真っ白になり、こんなにはっきりと結果が出たことに驚きました。合成洗剤の浸透力の強さとはこういうことかと……。
より環境への負荷を低減するために石けんを使用することが望ましいと思いました。
-森田
より環境にやさしい暮らし方というのは、どういうことなのか?われわれは、合成洗剤と石けんの違いをしっかり伝えながら、これからも製品作りを通して社会に提言し続けたいと思います。幅広く、また多角的な視点から検証をいただき、島民の皆さんに石けんが環境にやさしいと実感いただける結果となったことは何よりでした。皆さんの反応は、伊豆市長にどう届いているのでしょうか。
実験を経て
石けんの継続使用が
島民の8割に
-伊豆市長
たくさんの報告がありますが、子ども達の環境への関心が大きく変わったということに、この実証実験に大きな意義を感じています。実験当初は、「環境に良いこと」という漠然とした意識が、3カ月後には「なぜ、この実験を行うのか」「石けんと合成洗剤の違いは何か」までを、島外の学校とのオンライン交流で発表するまでになっているんです。メディアのインタビューでも、しっかりと実験について説明をしていたのには驚きを禁じえません。
-森田
スタート前から、いろいろなメディアに取り上げられましたし、行く先々で「あの実験はどうなったのですか?結果を早く知りたい」などの声をいただき、注目度の高さは肌で感じていました。この実験を通して、将来の夢を「石けんを研究する科学者になってみたい」と作文に書いてくれた子もいてうれしかったです。また、実験後も島民の約8割は継続して石けんを使っていただいているようです。
-百島理事長
そうですか! 継続使用されてるんですね。シャボン玉石けんの皆さんが、石けんへの絶対的な自信をもって実験の趣旨を説明されている姿勢も良かったと思います。事前説明会でも参加者は「わたしたちは環境に良いことのために参加しているんだよね」という雰囲気だった。わたしたちスタッフは、2週間に一度ほど島に足を運んでいましたが、フェリー乗り場の待合室で島民の方と実験の話題になることがよくあり、協力するのが当然ですよ、という姿勢も印象に残っています。
-今井教授
島単位、全島民が協力という調査は、ほかに例を見ないのではないでしょうか。九環協さんが分析した島民アンケートで、環境問題を身近に感じるようになったと回答した方もいました。
-百島理事長
〈実験に参加して、環境への意識が強くなった〉が、実験後にほぼ2倍になったという点も非常に重要です。もともと関心の高かった人がさらに意識が強くなるというのは行動につながるからです。石けんの伸びしろを示唆するものと思います。
-今井教授
わたしが思うに、石けんを島にお届けすることが最も大変だったのではなかったかと。液体石けん一本だけでも、重量はあるし形状的にかさばる。3カ月、相当な量を運ばれましたよね。
-森田
合計1トンほどでした。最初は洗濯用には液体石けんという具合に限定していたんですが、粉石けんや酸素系漂白剤も使ってみたい、赤ちゃんがいるからとベビーソープを、など、実験に積極的な様子でうれしい悲鳴でした。
多様な生き物が
共生する豊かな海を守る
-森田
では、最後に、当社に期待すること、読者へのメッセージも合わせてお願いします。百島理事長いかがでしょうか。
-百島理事長
下水処理施設に多様な微生物がたくさんいる環境というのは、つまり、安心・安全ということ。シャボン玉石けんを使うことは環境にいいことは実験でも実証されました。わたしも、おかげさまでシャボン玉石けんユーザーになり(笑)、わが家から排水される水は環境に負荷をかけない暮らし方に変わりました。読者の皆さまにはこれからも自信を持って使っていただきたい。
-森田
ありがとうございます。今井教授お願いします。
-今井教授
わたしは、〈シアバター洗顔〉派です(笑)が、消費者としては「もう少し安くならないの?」というのが正直なところです。値段で判断されることに、ジレンマがおありなのではないかと思います。しかし、わたしは工場を見学し、その値段の意味を理解しました。天然油脂を手間ひまかけて作っている。だから、正当な価格であって下げるべきではない。安ければいいという視点から、環境に良いものや良い環境を維持するものには必要なコストを払うべきという使用者側の意識改革が求められます。汚れた水を処理することに対しては、飲むための水を処理することほどのお金を払いたくないという気持ちはよくわかります。しかし、浄水だけでなく、排水処理も同様に、環境に対してきちんとした正しい対価を払うことへの理解を進めていく必要があるのかもしれません。
-森田
ありがとうございます。伊豆市長お願いします。
-伊豆市長
わたしのオススメは、気軽に持ち運べ、外出先や旅先でも重宝する、パウダータイプの洗顔石けんです(笑)。
-森田
(笑)皆さま、ありがとうございます。
-伊豆市長
やはり、豊かな自然環境を未来につなげるには、コストや手間がかかるのは当然であるという認識を広げていく必要があると感じています。わたしが今も暮らす宗像市の吉武地区は、1300年以上の歴史がある古社・八所宮があり、新立山を仰ぎ見る、緑豊かな場所。山々の美しさは子どもの頃から変わりません。このような故郷の風景を、次の世代に引き継いで、宗像にいつまでも残していきたい。今回のような実証実験ができたのは、生活に密着する商品を展開するシャボン玉石けんさんだからこそ。生活に身近な石けんで、環境にやさしい行動ができる。地島は、ひとつのモデルケースにすぎません。全国どこでも、誰でも取り組めるものだと思います。環境にも人にもやさしい石けんを選ぶ、ささやかな選択かもしれません。しかし、これが未来の子どもたちに豊かな環境をつなぐ一歩だと考えます。
-森田
宗像の漁業者さんたちは、海洋プラスチック問題にも取り組まれ、海岸や漁港での漂着ごみの回収、海上や海底のごみの回収も行っていらっしゃるそうですね。日本は海洋国ですし、海で世界はつながっています。当社も今回の結果をふまえ、環境によい商品作りを続け、今後も環境や海洋保全への取り組みについて何かできることがあればまた一緒に取り組みたいと思っております。皆さま、このたびはありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。