コラム
歯を大切にすることは
命を大切にすること、それは
自然に還る生き方につながっている
- 1984年日本歯科大学歯学部卒業、2021年現職、日本歯科大学理事。社会活動として日本歯科医学会総務理事、日本歯科医学会連合専務理事、日本生活習慣病予防協会理事を務めるなど、歯科医療を通じ国民の健康福祉向上に尽力。2012年厚生労働大臣表彰。
歯医者さんは歯が痛くなったら行く先? 歯科を上手に利用するコツなど小林学長に「健康を保つ口腔ケアのポイント」についてお話を伺いました。
― 先生は友の会会員様で、病院でも当社製品を導入いただいています。きっかけをお聞かせいただけますか。
先代社長の『自然流「石けん」読本』との出会いです。最初の1ページ目で心を鷲づかみにされました。『無添加を科学する』も読み、石けんを使うことは、自然に還る生き方であることなんだと。本当にありがたいものとめぐりあえたと感じたんです。 自身で使用するもの、そして院内でもシャボン玉石けんを採用しました。病院から排出されるものも自然にやさしく、自然に迷惑かけないものでありたい。それなら、シャボン玉石けんしかないなと。院内の売店でも取り扱いをしています、より多くの方の目に留まるチャンス。自然のものを利用する、そのことを提唱し発信できる一助になればと考えてのことなんです。
― ありがとうございます。
お口の健康と身体の健康は直結するといわれます。健康を保つ口腔ケアのポイントを教えていただけますか。
まずは、〈口腔健康管理〉という言葉を皆さんに知っていただきたいです。口腔ケアという言葉はお聞きになったことがあるかと思いますが、意外にその言葉、主語と目的があいまいで、健康を保つための行動につながりにくい、そんなもどかしさが歯科界にありました。そこで、〈図1〉のようにまとめたのが口腔健康管理という考え方です。歯科医院は、歯が痛くなったときに行かざるを得ない先、虫歯を治療する場所、痛い思いをする場所、好印象だと思う方は以前においては少なかったのではないでしょうか。人生100年時代にあって、健康寿命を伸ばすことがいよいよ大切になっています。正常な口腔機能をなるべく長く保つことが健康寿命につながります。口腔機能をケアできるのは歯科であり、歯科医師が行う口腔機能管理、主に歯科衛生士が行う口腔衛生管理、皆さんと多職種の方々が日常で行う口腔ケア、それらが一体となり口腔の健康を保つ。それが〈口腔健康管理〉という考え方であり、歯科医院はその役割を担うべき場所なのです。
— 歯医者さんは痛くなったら行く先、にならないような私たちの意識改革が必要ですね。
それは、われわれも同様です。歯科医師は歯の修理屋さんではない。目指すは、命と向き合い国民のトータルな健康に心を砕くことが歯科医療であること。全身的疾患状況を踏まえ、他職種と連携をとりながら、患者さん一人ひとりの状態に沿った口腔機能の維持あるいは回復・獲得を目指した定期的な関わり方、つまり〈治療・管理・連携型〉歯科治療。それが今求められている歯科医師像だと、学生にも指導しています〈図2〉。口腔機能をマネジメントし、健康そしてクオリティ・オブライフを支える。たとえば、噛める、飲み込める、しゃべるなど、ご本人にとって正常な口腔機能を妨げてしまうような義歯では、意義ある医療行為とは言えません。
— 口腔環境と脳梗塞・心疾患・認知症・リウマチ・糖尿病・誤嚥性肺炎・早産や低体重児出産などとの関連も示唆され、また明らかになってきました。
2018年、健康寿命延伸のための基本法の附則に歯科疾患が言及され、口腔健康管理の重要性が国民に明言されたことになります。要するに口の健康はすべて身体の健康に関わるということなんですね。それら疾患予防はもちろん、医療の目標は健康寿命を伸ばすことだと私は考えます。健康寿命とは平たくいうと、寝たきりにならないことなんですね。寝たきり防止に、噛み合わせが注目されています。噛めなくなると顎の咬合バランスが悪くなる、すると体の重心がずれ転倒する、転倒は骨折を招き、結果、寝たきりにつながることも示唆されています。
— 自分の歯をできるだけ残すメンテナンスがポイントになりますか。
歯科技術の進化はめざましいものがあります。ご自身の歯を失ったとしても、義歯、インプラントなど治療やケアの選択肢は広がっています。よって、歯科医師による適切なケアを行うことで十分口腔機能を保つことが可能です。歯科治療によっても、きちんと噛むことができるように処置をすれば問題ありません。噛むことができないと唾液も減少し、口腔内が不潔になり、病気を引き起こす菌が優勢となってしまい、誤嚥性肺炎に罹患するなどといった悪循環に陥ります。唾液は体にとって、一番の良薬。唾液により口内環境が清潔に保たれ、常在菌のバランスをとる役目も果たしてくれます。しっかり噛んで唾液を出す、口内環境が清潔でない状態というのは、命に関わることなのです。
— 健康寿命と予防につながる定期検診は表裏一体ですね。
2020年4月の診療報酬改定で〈歯周病重症化予防治療〉が設けられました。私は歯科の診療報酬改定にも関わっているので、やっと予防概念が保険診療として認められたという思いです。予防ではなく重症化予防、この違いも皆さんと共有したい点です。歯周病菌は誰もが持つ常在菌のうちの一つなので、それを無菌状態にする、つまり完全に予防をすることはできません。常在菌のバランスをコントロールして歯周病発症を抑制するのが重症化予防です。国民全員が3カ月に1回は歯科医院に通うイメージで、歯科医師はこれまで以上に一人ひとりに沿う口腔健康管理が求められます。現状からすると今後、歯科医師・歯科衛生士不足が考えられ、そして歯科医療従事者の育成が急務だといえます。
— 食生活で気をつけることはありますか。
人を良くする、と書いて食。乳幼児期・学童期の食生活は、生涯にわたる口腔機能を決定づけるといえます〈図3〉。機能をレベルアップさせることを〈ハビリテーション(機能の獲得)〉といい、すでに一般的なリハビリテーションは機能の再獲得といったところですね。自然のもの、自然の姿に近いかたちで食生活に取り入れる、たとえば、野菜を丸かじりする、魚を丸ごといただくなど、硬いものを食べることで顎や歯を鍛え、ハビリテーションになります。加工品や柔らかい食べ物ではハビリテーションにはなりにくいのです。生まれたときから生涯にわたる口腔健康管理が大事です。
— 食事に手軽さ便利さばかりを求めることに警鐘ですね。
私どもの大学の創設者の中原市五郎先生は、『日本食養道』(風人社)を著しています。中原先生はそこで、〈歯科医師は食物の良否を鑑別する義務と責任を有す〉といい、われわれ歯科医師が果たすべき役割、また、口腔健康管理という観点から望ましい食のあり方を紹介しています。実はこの著書、私が大学で研究する中、口腔機能と食の関係に注目するようになったタイミングでの出会いでした。歯科医師会や学会で口腔管理機能の概念を広め、唾液の有用性に関する研究にあたること、これは自分の使命だなと改めて感じた出会いでした。加工品など手軽で便利ですが、軟食では口腔の諸機能を鍛えることは難しい。栄養バランスを心配するのと同じように、しっかり噛む食材や調理法なども工夫されてはいかがでしょうか。
— 食材のトレーサビリティも懸念されます。
産地表示される食材も増えてきましたが、どんな飼料や肥料を使用して育てたものなのか。その飼料や肥料はどんな会社がどう製造したものなのか。それら過程がわからないものを、私たちは口にしているのではないでしょうか。一人ひとりが自給自足できるかというと、それも難しい。では、この状況にあっていかにして健康を守るのか、それは〈解毒〉にヒントがあると考えています。添加物を口にしたとしても排出・解毒すればいいわけで、解毒作用ある食品をいかにとるか。その食材とはどういったものなのか、そこを今、研究しています。
— 伝統的な日本料理にも期待できそうです。
日本の伝統料理の素晴らしさを科学的視点から解明そして捉え直し、国民の食育、健康づくりを支える。
日本料理は、身体を中庸に保つよう工夫されています。陽と陰のバランスをとるよう、例えば陽の食べ物である魚を食べるときには、陰の食べ物・大根をおろして一緒にとる、といったように日本料理は人間の体を中庸にするエッセンスがつまった素晴らしい食事なんですね。
— 何を口にするのか、何を使うのか。一つひとつをきちんと見極めて選択することが重要ですね。
考え方さえ持っていれば、自ずとどう行動すべきかわかります。行動することは生き方であって、行動・実行を伴ってこその考え方ですよね。われわれ学術者で最もいただけないのが、検討会などと称して検討だけがなされ何も具現化、行動につながらない行為と思っています。具現化しなければムダな時間、ムダな労力を浪費してるだけ。自戒として、研究、具現化、行動する学術者でありたい、今後も皆さんの健康を守る歯科医師を目指し続けたいと思います。
— 読者へメッセージをお願いします。
私は患者さんに常々、命のために歯を磨きましょうと伝えています。歯を大切にすることは、命を大切にすることです。私は朝起床後まず、シャボン玉せっけんハミガキで歯を磨きます。就寝時の口内は36度の保温機で、常在菌を発酵させているようなわけですから、起床時の口内は劣悪かも? 歯を磨き清潔な状態にしてから朝食をとる習慣づけはどうでしょうか。そして、歯磨き剤は自然のものを使ってほしいです。食べ物も、口にいれるものも、体に関わるもの全部、自然方向、自然に戻る、自然に近づくケアです。ケアとは行動のことであり、行動は生き方のこと、自然に還る生き方につながっています。