コラム
化学物質過敏症や香害、
地球と人間の
健康を考えるきっかけに
- 微量環境化学物質の健康影響に関する研究が専門。厚生労働省や環境省における上記テーマの研究班長・研究代表者。日本臨床環境医学会元理事長をはじめ、環境医学関連の学会の理事、評議員などを務める。
当社では本年も、化学物質過敏症について継続的に情報を発信致します。化学物質過敏症の研究、診療、国への提言などをされている東海大学の坂部先生からのお話を2号に渡ってご紹介します。先生には、2017年発行の友の会だより168号、2018年制作『カナリアからのメッセージ』にもご協力をいただき、国内で数少ない化学物質過敏症の専門家です。 第一弾は、香害、室内環境が人間に与える影響、健康資本と社会資本との関係など、地球と人間の健康を考える貴重な内容となっています。
― 化学物質過敏症に関連した「香害」の状況を、先生は現在どうとらえていらっしゃいますか。
香害に関していうと、二極化していると感じますね。香りを楽しむ集団と、ナチュラルでニュートラルな空気を求める集団、その傾向がハッキリしてきたと思います。
― 我々は無添加一筋の石けんメーカーなので、香りを楽しむよりも化学物質との関係を心配しています。
人間というのは刺激のあるものに対して依存性を示してしまうものなんです。においをつけ始めると、つけないことが気持ち悪くて依存してしまう。柔軟剤の香りがすることで安心できる人たちもいるということですよね。
― 当社の無香料の石けんのにおいを、安心するという方もいれば、そうでない方もいらっしゃるようにですね。
香りというのは記憶の中に長期間保持されます。いいにおい・いやなにおいを一度認知してしまうと、人間はその記憶をなかなか変えられなくなるものなんです。
― 友の会だより168号で、人間が体内に取り込む化学物質のうち8割が呼気からというお話に、衝撃を受けたことを覚えています。食べ物にばかり関心が向けられていますから。
当時(2〜3年前)からの変化といえば、2019年1月に厚労省の室内空気に関するガイドラインの数値が若干変更されました。今日も厚労省生活衛生課に伺い、室内の空気汚染に関して継続研究の必要性について協議してきたところなんです。
― 化学物質過敏症とシックハウス症候群は関係があるのでしょうか。
学物質過敏症を発症する6〜7割程度は、シックハウス症候群からです。原因として有力なのはやはり、室内の空気汚染が考えられます。ただ、シックハウス症候群は、化学物質に汚染された建材や家具などを変える、換気を十分に行うことなどの発生源対策をすることで症状は改善されます。しかし、化学物質過敏症の場合、発生源対策をしても改善しない。というのも、発生源と思われる以外の化学物質にも反応してしまうからなのです。
― 北海道の新聞などでは、よく化学物質過敏症に関する記事が掲載されています。室内にいる時間の長さも影響するのでしょうか。
時間の長さと高気密高断熱の建築構造であることも関係します。寒さの厳しい地域で、冬場に窓を開けっ放しというわけにはいきません。加えて、燃焼系の暖房を使用している場合、窒素酸化物・硫黄酸化物・揮発性有機化合物などが発生します。室内が大気汚染状態なんですね。
― 暖房であれば、どういったものが体にやさしいのでしょうか。
化学物質という観点から人体にやさしいものであれば燃焼系ではない、オイルヒーターやパネルヒーターなどですよね。ただ、あくまで人体にとっては、という視点です。当然、電気代やガス代がかさみ家計にはやさしくない、室内空気環境は改善されても地球温暖化という点、つまりグローバルな視点からするとやさしいとはいいがたい。
― 何かを選択するときに、製品であれば設計・製造・使用期間や頻度、そしてリサイクルまで、トータルに考える。地球への負荷を考える必要がありますね。
そう、社会全体、地球規模から考える視点ですね。換気もそうです、換気効率をあげればあげるほど人間の健康度は増します。常に空気がきれいですから。しかし、換気回数を増やせば増やすほど、冷房効率や暖房効率は悪くなる。そうするとCO2の排出が増える。それって、地球環境にとってはどうなんだ、ということですね。
― 地球と人間の折り合いがうまくいくラインというのはあるんでしょうか。
実は、建築基準法で24時間0.5回換気というのがあるんです。0.5回換気というのは、1時間あたり0.5回、つまり2時間に1回ごとに部屋の空気が全部入れ替わる換気能力を示しています。1回換気は1時間に1回、換気回数を1回、2回、3回……回数を増やせば増やすほど空気はきれいになり、人体にとっては良い室内環境になります。
― 0.5回換気であれば、地球にも人間にも負荷が少なく、どちらも健康な状態を保てるということでしょうか。
そのとおりです、0.5回換気がちょうどいいラインだったんですね。 最近では、健康をひとつの資本としてとらえて、環境などの社会資本との相互関係が研究されるようになってきました。その、0.5回換気の例は、偶然だったようですが、結果、健康資本と社会資本のベストバランスだということがわかったんです。
― 健康資本だけの視点で物事をとらえていては、地球は危険な状態になりかねない。現在、当社ではSDGs(持続可能な開発目標)の達成を目指し、さまざまな取り組みを行っています。健康資本と社会資本、どちらの視点も欠かさずに進めていきたいです。
健康資本と社会資本を、どちらか一方ではなくバランスを考慮しながら、設計したり計画したり行動することが求められる。今は、そんな時代になっていると思います。